作品・出版賞

受賞者の所属は受賞当時のものです。

目次

第19回(令和7年度)

作品・出版物株式会社ヤマップ「YAMAP 流域地図」
受賞者株式会社ヤマップ
受賞理由「YAMAP流域地図」は,株式会社ヤマップが2024年5月に提供を開始したウェブ地図で,日本の国土を流域(集水域,水系)単位で表示するユニークな特徴を有している。この点を踏まえ,以下の2点の理由により,当学会の作品・出版賞に値するものとして高く評価できる。
 1)「流域」の視覚化
  流域という一般にはなじみがない概念を視覚化し,特に防災の視点からわかりやすく説明するツールとなっていること。
 2)操作の容易性
  使い方マニュアルのページを参照することなく,直感的に操作が可能であること。
 流域は,水防関係者をはじめ河川に関心のある人にはよく理解されている概念であるが,その概念を知らず日常生活では意識しない人も多いと思われる。しかし,突然の豪雨や超大型台風の襲来などが頻発する今日,流域単位で地域を捉えることは防災上重要な視点である。「YAMAP流域地図」は,衛星画像を背景図とした標準モードと想定浸水区域等を色分けしたハザードマップモードに切り替えることが可能で,いずれのモードでも一見して流域について理解可能かつ説得力のある画像が表現される。また,「流域地図の使い方」と題する使用説明のページが用意されているが,少しでも他のウェブ地図を使った経験があれば,拡大縮小や視点の自由移動などの操作が直観的に行えることも評価できる。

第18回(令和6年度)

作品・出版物にゃんこそば(著)・宮路秀作(監修)SB Creative「ビジュアルでわかる日本 データに隠された真実」
受賞者にゃんこそば 氏
受賞理由本書は,さまざまなデータを地図により可視化し,そこから見えてくる日本の姿や地域の姿を分析・解説する内容である。自然から社会まで幅広いジャンルにわたる45のテーマを扱っており,多くの人が「何となく」イメージしている地理的な認識が実際のデータで裏づけられるばかりでなく,意外な法則性やデータの落とし穴に気づかされるなど,読みやすい内容ながらも多くの学びがちりばめられている。地図表現のバリエーションも豊富で,著者の主題図としての最適な可視化への意欲やこだわりが見て取れる。著者はさまざまなオープンデータを地図で可視化してSNS等で紹介する活動を積極的に行っており,本書はその集大成ともいえる内容である。地図を活用した可視化の有効性を広く社会に普及させることに貢献していることが評価された。

第17回(令和5年度)

作品・出版物大田暁雄(2021):『世界を一枚の紙の上に 歴史を変えたダイアグラムと主題地図の誕生』.272頁、オーム社
受賞者大田暁雄(武蔵野美術大学 造形学部 視覚伝達デザイン学科)
受賞理由著者は,美大においてコンピュータメディアを中心としたグラフィック・デザインおよびダイアグラム・主題地図表現について教育・研究を行うとともに,デザイナー,プログラマーとしてその実践者でもある。本書は,副題に“歴史を変えたダイアグラムと主題地図の誕生”とあるように,19世紀初頭の地理学者のフンボルトによる垂直植生分布図の作成から,20世紀の第二次世界大戦前のオトレとノイラートによるアトラスの展示デザインに至るまで,図的表現方法の革新について多数の図例を参照しながら追ったものである。また,書名に“世界”とあるように,図的表現は,要素の描写からはじまるが,それらを整理して示すことにより上位レベルの俯瞰イメージ・世界観の創出を刺激できるということを示そうとしている。 近年,データの視覚化やインフォ・グラフィックスという分野が意識されるようになってきているが,与えられたデータを単に既存の表現パターンに当てはめて出力する自動化手法となっていることも多い。視覚表現手法の多くは,元を辿ってみるとコンピュータの普及以前から存在するものも多く,各々の表現方法はそれまでには認識出来なかった事をはじめて分かるようにしたという表現創出の格闘の結果でもある。
本書では,一貫して何故そのように表現するのかという視覚デザインを通した概念創出へのチャレンジという視点が流れており,地図という図的表現の可能性についてデザインという角度からあらためて刺激と勇気を与えてくれるものとなっている。よって,ここに作品・出版賞として推薦するものである。

第16回(令和4年度)

作品・出版物小野寺 淳 ・ 平井松午編(2021):『国絵図読解事典』.320頁、創元社
受賞者小野寺 淳 会員(茨城大学名誉教授)、平井松午 氏(徳島大学名誉教授)
受賞理由小野寺 淳・平井松午編『国絵図読解事典』(創元社,2021)は、江戸幕府のもとで作成された国絵図とそれにもとづく日本総図についての総合的な事典である。国絵図研究会会員など40名が分担執筆し、全50項目、図版約400点を含み、B5判318ページの大冊である。全国的な国絵図の伝存状況を主とした既刊の、国絵図研究会編『国絵図の世界』 柏書房,2006)の続編という位置にあり、前書以降の研究成果を反映しつつ、国絵図の利用、読解の多様な可能性を提示する本書の意義は大きい。日本の地図史、国土の歴史を知るための基本参考図書の一角として高く評価できる。

第15回(令和3年度)

受賞者齊藤忠光 会員(元(一財)日本地図センター)
受賞理由齊藤会員は『地図とデータでみる都道府県と市町村の成り立ち』平凡社(2020)を著した。本書は著者が1990年代に「マーケッティングのための GIS 基盤データ「全国の大字町丁目界地図データベース」の企画開発に携わったことを契機に、我が国における現在の行政区画の成立過程に問題意識を持ち、退職後に大学院で本格的に「地域史」研究に取り組み、古代日本の国郡区域から始まる各時代の変遷事例を地図と統計データを分析した修士論文および本学会機関誌「地図」発表論文等を集大成し、いかに現在の日本の行政区画が成立したかの変遷過程を判り易く一般向けにまとめた著述である。本書の特徴は各時代の施策過程で作成された行基図、国絵図、国郡絵図、伊能図、明治期地籍図、大日本帝国全図等の地図が多数紹介・解説され地図専門家にとっても大変有益であり、今後、日本の人口減少等にともなう新しい日本の地方創生を考えるうえで広く国民にとっての参考文献として高く評価できる。

第14回(令和2年度)

作品・出版物『「地図感覚」から都市を読み解く: 新しい地図の読み方』晶文社 (2019/3/14)
受賞者今和泉隆行 氏(非会員)
受賞理由今和泉隆行氏が著した『「地図感覚」から都市を読み解く――新しい地図の読み方』(晶文社)は、人々が地図から何を読み取ってどのような解釈をしているのかをわかりやすく解説した書籍である。従来の読図解説書が取り上げてこなかった民間地図やWeb 地図などを対象に、多くの人が意識することなく地図から読み取っていたイメージを言語化しており、地図表現からのアプローチで都市の特性を読み解くヒントを具体的に示したことで、従来地図を苦手としていた層、あるいは地図に興味がなかった層にも地図の奥深さを認識させた功績は高く評価できる。

第13回(平成31年度)

作品・出版物
受賞者今尾恵介 会員・東京カートグラフィック(株)特別会員・河出書房新社
受賞理由『日本200年地図 伊能図から現代図まで全国130都市の歴史をたどる』を刊行した。全国47都道府県130都市・161地域を、江戸後期は伊能図(大図と中図)、明治以降は国土地理院の地形図(縮尺1:20,000、1:25,000、1:50,000)を原寸で掲載するほか、現在では入手困難な地形図を多数収録し、各図のポイントを監修者が簡潔に解説した地図帳である。今尾会員は、幅広い地域・時代に跨る地図を収集・調査し、それらの意義を多くの人々に的確に伝えてきた。東京カートグラフィック(株)特別会員は、各種の地図データを提供するとともに、その提供方法について数々の創意工夫を行ってきた。河出書房新社は、各分野の特徴的な著作を一般の流行に囚われず刊行してきた。これらの実績を有する3社が、日本の国土の歴史を客観的に著した正確な地図類を同一基準で選択し系統的に紹介した意義は高く評価できる。

第12回(平成30年度)

受賞者杉本智彦 氏
受賞理由地図ソフト「カシミール3D」は、1994年にフリーソフトとして発表され、その後の不断の改良により、多機能の地図総合ソフトとして今日に至っている。簡単な操作で鳥瞰図、断面図、可視地図、地名検索を可能とし、特に山岳展望としては他に類をみないソフトである。「カシミール3D」は教育研究分野や趣味分野はもとより、土木建設の実業分野においても不動の存在となっており、2012年には、国土交通省国土地理院による第1回電子国土賞を受賞した。2016年、杉本氏はスマートフォン・タブレット型端末アプリ「スーパー地形」を発表した。このアプリは「カシミール3D」で実現していた地図表示を携帯可能にし、GPSトラックの表示や編集をより身近なものとした。杉本氏の仕事は、「数値地図」や地理院地図の表示にとどまらず、国内外の多様な地理空間情報の可視化とその活用の可能性を拡大させた。よって、杉本氏の貢献は、日本地図学会の作品・出版賞に十分に値する。

第11回(平成29年度)

受賞者大日本印刷株式会社 DNPミュージアムラボ「フランス国立図書館 体感する地球儀・天球儀展」
受賞理由大日本印刷株式会社は、フランス国立図書館(BnF)と共に世界屈指の地球儀・天球儀コレクションの3Dデジタル化に取り組み、この人類の遺産に多くの方に触れていただく機会として優れた展示を開催した。デジタル化により示される新しい視点から、先人たちが見た世界を改めて発見するための画期的な体感型空間を企画・実現・公開した。

第10回(平成28年度)

受賞者衿沢世衣子 氏(漫画家)
受賞理由衿沢世衣子氏が描く『ちづかマップ』(小学館フラワーコミックス)は、主人公の女子高生「ちづか」が地図を活用してさまざまな場所を訪れ、さまざまな経験をする1話完結形式のコミックである。少女漫画誌の連載をもとに、2012年に第1巻、2013年に第2巻、2015年8月に第3巻が刊行された。高校生の日常を舞台として、主人公は東京や関西などのいくつかの地域を訪れ、歴史のある店でおいしい食べ物を手に入れたりするが、単なる名所の解説やうまいもの巡りではなく、江戸切絵図をはじめとする古地図、地形図、旧版地形図、吉田初三郎の鳥瞰図、東京時層地図(スマートフォンのアプリ)など、必ず地図を持って行動し、それにより思わぬ発見をし、思わぬ出会いがあるというストーリーである。各話には正確な地図が添えられ、主人公が訪問した場所を読者が訪問することができるようにされている。漫画という親しみやすい方法により、地図を使う楽しさと、地域の歴史や文化に気づく「街歩き」に適切な地図が不可欠であることを示し、多様な年齢層に地図活用を促した点で高く評価できる。

第9回(平成27年度)

受賞者株式会社東京地図研究社 ※特別会員
受賞理由同社の2014年の著作物『地形のヒミツが見えてくる 体感! 東京凸凹地図 (ビジュアルはてなマップ) 』(技術評論社刊)は、2005年の『地べたで再発見!「東京」の凸凹地図』の新版であるが、同社はデジタル手法の陰影図による地形の立体表現にいち早く注目し、優れた企画と懇切な編集によるこれらの出版物により、地形とその地図表現に対する社会的関心を高めた。江戸東京の地形と歴史に関する図書の刊行、「東京スリバチ学会」「名古屋スリバチ学会」など都市の地形観察を目的とする活動、『ブラタモリ』など地図・地形散策をテーマとしたテレビ番組の興隆など、大都市地形を再認識するムーブメントの原点となった点で、同社の活動は高く評価できる。

第8回(平成26年度)

受賞者(一財)日本地図センター ※特別会員
受賞理由同センターが開発し販売している『時層地図』シリーズは、携帯端末で旧版地図を現地と照合しながら閲覧できるようにしたもので、iPhone版の「東京時層地図」と「横濱時層地図」に加え、このほどiPad専用地図アプリも公開された。これには2画面表示、ブックマーク機能(SNS対応)、ヘディングアップ表示、地名検索等の機能が追加され、東京・横浜の明治・大正・昭和・平成の地図を自在に組み合わせ、切り換えて閲覧することができる。印刷地図・デジタル技術・衛星測位技術の融合により、街歩き等で旧版地図を手軽に閲覧できるようにした功績は大きい。

第7回(平成25年度)

受賞者織田雅己 会員(地図工房トンビの目)
受賞理由同会員が作成しているパノラマ地図シリーズは、広範囲の地形を独特の雰囲気のある絵柄で表現する鳥瞰図である。「ぐるり紀伊近畿360°」という作品は、360°を見回す点に他にはないユニークさがあり、国際地図学会議(ICC)2011(パリ)の国際地図展において「その他の紙地図」部門の1位を得た。このように、同氏の作品は国内はもとより国際的にも高く評価されている。

第6回(平成24年度)

受賞者政春尋志 会員(国土地理院)
受賞理由同会員の著書『地図投影法』(朝倉書店)は、地図の基本として重要であるにもかかわらず必ずしも十分に理解されているとはいえない地図投影法を正面から取り上げた書物である。地図投影法に関する本格的な書籍の発刊は、野村正七元会長(故人)の著書以来28年ぶりとなる。コンピューターで地図データを処理することが普通となった現代に合わせた内容になっており、高く評価される。

第5回(平成23年度)

受賞者田邉 裕 会員(元 帝京大)・谷治正孝 会員(元 帝京大)・滝沢由美子 会員(帝京大)
受賞理由帝京大学地名研究会(上記三会員と渡辺浩平氏(帝京大))による「地名の発生と機能-日本海地名の研究-」(2010)は、16世紀から19世紀までの世界地図や日本周辺の地図約50点を時系列順に掲載するとともに、これらの地図学的・地名学的な分析により日本海地名の定着過程を明らかにした著作物である。丹念な古地図収集と先入観を排除した考察により、日本海地名問題に学術的な観点で一つの結論を導いたものであり、高く評価される。

第4回(平成22年度)

受賞者島方洸一 会員・立石友男 会員・井村博宣 会員(日本大学)
受賞理由島方会員が企画・編集統括し、立石・井村両会員が編集委員となって作成された『地図で見る西日本の古代』(2009年、平凡社刊行)は、明治期の5万分の1地形図上に古代の都城、街道、条理などを示した一種の地図帳である。忍耐強い作業により、地図という表現様式を活用して古代の国土の姿を正確に復元した労作であり、地理学的にも歴史学的にも貴重な学術資料として高く評価される。

第3回(平成21年度)

受賞者今尾恵介 会員
受賞理由同会員が企画に参画し、監修した「日本鉄道旅行地図帳」(全12巻、2008年~、新潮社刊行)は、従来のこの種の出版物とは異なり、正確な地図を掲載しその重要性が示されたことが話題となったほか、鳥瞰図など工夫された地図表現も用いていること、鉄道の改廃等について詳しい情報が示されていることなど、地図作品として、また学術資料として高く評価される。

第2回(平成20年度)

受賞者渡辺一郎 会員(伊能忠敬研究会) ・ (財)日本地図センター(特別会員)
受賞理由渡辺会員が監修し、日本地図センターが編集して2006年12月に刊行された「伊能大図総覧」は、海外で繰り返し調査を行うなどして発掘した伊能大図のすべてをそろえ、精緻な印刷で複製したもので、学術資料としてきわめて大きな価値がある。高価であるにもかかわらず予定の300部が完売となったことも評価の高さの現れである。

第1回(平成19年度)

受賞者特別会員 (株)昭文社
受賞理由同社発行の「帰宅支援マップ」シリーズは、大地震時に誰もが帰宅困難者となる可能性と、その場合の帰宅ルートの情報の必要性を示すもので、地図制作者の立場から社会に広く警鐘を鳴らすとともに、地図の重要性を広く認識させるものとなった。
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