特別賞

受賞者の所属は受賞当時のものです。

目次

第19回(令和7年度)

受賞者野上道男 会員
受賞理由野上道男会員は,伊能図についてデジタル化された画像データを用い,画像を構成するピクセルの位置を座標に換算して,距離や方位の計測を行い,地図の精度を定量的に検証する論文を多数発表してきた。一連の論文は2019年から2023年までの5年間に8編にのぼる。中でも,「地図」57巻3号掲載の天文測量・横切測量・方位測量による測線位置の補正が地図の精度向上にどのように寄与したかについて論じた「伊能大図における星測と横切測量・方位測量による導線位置の補正-第4次測量までの例-」は,令和3 (2021)年の論文賞を受賞している。さらに2024年には,魏志倭人伝の方位と距離の記述を考える上で留意すべき中国の歴史書『後漢書』郡国志記載の方位と距離について,現在の地図上の文献に記載された測量位置を推定し,その位置座標から計算により精度を検証するなど,2編の論文を発表した。
以上のように野上会員は,10編におよぶ論文により,これまで定性的になりがちだった紙に描かれた地図や古代測量の記録の精度を定量的に算出する方法を提案するとともに,伊能図の測線および『後漢書』郡国志記載の位置と方位の精度を数値的に明らかにするなど,地図学の発展に大きく貢献した。

第18回(令和6年度)

受賞者神奈川県立歴史博物館「特別展:地図最前線-紙の地図からデジタルマップへ-」
受賞理由神奈川県立歴史博物館は,2022年7月16日から同年9月25日にかけ,「特別展:地図最前線-紙の地図からデジタルマップヘ-」を開催した。近代測量から現代,さらに未来のデジタル地図までを体系的に展示した特別展は,期間中の多数の参観者を集め,地図に関する興味関心を高めることに貢献した。特に,地図印刷技術の転換期に当たる19世紀後半から20世紀初頭に活躍した岩橋教章・章山親子の活動に着目し,近代印刷技術と地図の発展を関連付けた展示は,地図学史に対して新たな知見を提供した。また,鳥瞰図絵師・吉田初三郎が描いた神奈川県内の地図を展示することで,東京郊外に当たる神奈川県の観光地化を地図表現から考察した展示であった。さらに,芝浦製作所の技術者で水力発電開発のために地図を愛用した岸敬二郎の野帳や地図を展示することで,地図が有する近代化への貢献を示したことは,大きな成果であった。
カ月以上にわたる期間中には,記念講演会「近代日本における鳥瞰図の系譜」,連続講座「地図を使った人たち」,大人向けワークショップ「デジタル鳥瞰図を作る」,現地見学会「横浜・関内を歩く」,子供向け講座などを開催し,地図文化の普及に多大の貢献を果たした。
公立の歴史博物館において,多面的な地図展示を行い,更に現代のデジタル地図を含めた展示とすることで,地図の意義を分かりやすく紹介した特別展の意義は高く評価される。このように,歴史博物館における地図展示の新たな視点を示した意義は高く,これらが評価された。

第17回(令和5年度)

受賞者渡邉英徳(東京大学大学院 情報学環・学際情報学府),古橋大地(青山学院大学 地球社会共生学部)
受賞理由「Satellite Images Map of Ukraine」は,オープンに配信されたウクライナの衛星画像をデジタル地球儀プラットフォームの「Cesium」にマッピングして公開するプロジェクトである。古橋会員と渡邉氏が協力する形で2022年2月にロシアがウクライナに侵攻を開始した直後に立ち上がり,侵攻の推移と現地の被害状況をWeb上で可視化し続けている。各社が公開する衛星画像は位置情報が付与されていないため,写っている地物などから場所や方位を特定し,歪みを調整するジオリファレンスを手作業で行っているほか,市民から提供された現地の画像等も3Dモデルとして可視化し,同プラットフォームで公開している。地理空間情報技術を活用することで,戦争の現実をわかりやすい形で表現し,リアルタイムに近い形で世界中に伝え続けている本プロジェクトは高く評価されるべきであり,特別賞として表彰するにふさわしい取り組みである。

第16回(令和4年度)

受賞者日本視覚障害社会科教育研究会
受賞理由全国の視覚特別支援学校(盲学校)の社会科教員の団体「日本視覚障害社会科教育研究会」は、長年にわたり視覚障害児の学習に適した地図帳の点字翻訳に取組み、2008年に『点字版:基本地図帳-世界と日本のいまを知る』を刊行した。この点字版地図帳は、児童・生徒はもとより、大人も含めた視覚障害者にとって欠かせない地図帳として、今も使われ続けている。その後も、視覚障害児を対象とした地図教育の授業研究や教員研修などを継続的に行ってきた。2019年には、弱視の児童・生徒や、学習に様々な課題を抱える子供達を対象に、地名情報等を絞り込み、文字を大きくした『みんなの地図帳~見やすい・使いやすい~』を刊行した。このように、継続的に、全国の視覚特別支援学校が連携して、視覚障害者の地図学習を支援し、教職員が研鑽する取組は、高く評価するものである。
受賞者宮坂和人 氏 筑波大学人文地理学・地誌学・空間情報科学研究グループ
受賞理由筑波大学の地理学教室で、カルトグラファー(地図描き職人)として長年にわたり数多くの地図を描いてきた宮坂和人氏は、ペンとインクのみで、道路や鉄道を引き、農地を作付け品種ごと、市街地を一筆ごとに描きこんできた。宮坂氏の描く地図は、農村景観や街並みをモノクロの学術論文の主題図として描くなかで、地理学の研究成果を読者に伝える重要な役割を担ってきた。今回、宮坂和人氏の定年退職を契機に、宮坂氏制作の主題図を「マップアート作品」として後世に残す『手描き地図職人・宮坂和人マップアート作品集』制作の主題図を「マップアート作品」として後世に残す『手描き地図職人・宮坂和人マップアート作品集』プロジェクトが展開された。費用をクラウドファンディングで募るなど、特定大学関係者を超えた、オープンな取組であった。そして、2020年の出版物刊行に加え、2020年10月からはウェブサイトで一般にも40枚以上の地図が公開されている。『手描き地図職人・宮坂和人マップアート作品集』は、我が国の地理学研究論文のカルトグラフとしての到達点を示しており、それを支える研究グループの在り方も示したものであり、高く評価するものである。

第15回(令和3年度)

受賞者近代測量150年記念事業推進会議
受賞理由近代測量150年記念事業推進会議は、1869年に近代測量が始まってから150年の節目を迎えた2019年度に実施された「近代測量150年記念事業」を、地図・測量に関わる各機関と連携し、中心となって進めた。近代的測量・地図作成の150年間の発展を振り返るとともに、未来を描く起点となるよう、新旧の地図や測量機器の展示、フォトコンテスト、新旧の測量スポットを訪問するウォーキングツアーなどさまざまなイベントの企画・開催、特殊切手の発行、小・中学生向けの教材の作成・配布、「測量・地図150年史(仮称)」の編纂などを行った。これらの取り組みを通じて、測量・地図作成の意義や歴史について、広く国民に知らしめた。このことは、地図学の普及・発展に大きく寄与するものであり、高く評価できる。
受賞者長久保赤水顕彰会
受賞理由長久保赤水顕彰会は、茨城県高萩市出身で江戸時代の地理学者、長久保赤水(1717~1801)の功績をについて広く発信している。長久保赤水は、茨城県高萩市出身で、水戸藩の儒学者として藩政への学術的・技術的提言を行うとともに、地理学者として『改正日本輿地路程全図』(1780)、『改正地球万国全図』(1785)を刊行し、国内外で広く活用されている。前者は、国の重要文化財に指定(2020)されている。実測図でないものの、伊能忠敬の『大日本沿海輿地全図』より 30 年以上前に、幕府勅撰の日本図や諸国の国図を基に編集され、経緯度線も初めて描かれた。刊行後も文献や旅人からの情報に基づき改定を重ねたことは、今日のリアルタイム地理空間情報の原型といえる。これらの地図には、日本の北辺や大陸との間にある島嶼が、今日の知見からみても的確に描かれており、地図史としても地政学的にも意義も大きい。このように、長久保赤水の功績とこの地図の科学史的・地政学的な意義とを一般向けに広く普及啓発した活動は、高く評価できる。

第14回(令和2年度)

受賞者国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センター
受賞理由産総研地質調査総合センターは、国土の地質学的実態を明らかにするため、さまざまな地質図を作成してきた。地質図は図幅単位で作成され、凡例も図幅単位で異なっており、利用はもっぱら専門家に限られていたが、2006 年には日本全国を統一凡例でまとめた20 万分の1 日本シームレス地質図全国版をWeb で公開することにより、さまざまな情報との重ね合わせや、スマートフォンなどのモバイルデバイスで位置情報に合わせた表示も可能になったことで、より幅広い層に地質図が利用されるようになった。また、2018 年には地質標本館に設置されている日本列島の立体地質図をリニューアルし、日本列島の精密立体模型に地質などに関するさまざまな情報をプロジェクションマッピングにより投影することで、地質と人間社会の関わりをわかりやすく視覚化できるようになった。同センターのこれらの取り組みは地質図を一般の人々にとってより身近なものにしたと同時に、地図技術の発展にも大きく寄与しており、高く評価できる。
受賞者第29回国際地図学会議実行委員会(ICC2019)
受賞理由第29回国際地図学会議及び同第18回総会(ICC2019 東京大会)は、2019年7月15日(月)から同21日(土)にかけて、日本科学未来館(東京都江東区青海2-3-6)他で催され、75ヵ国・地域から950名が参加し、150のセッションで延べ750件の論文発表が行われ、併催された地図展には30ヵ国から385の地図が展示され、成功裏に終了した。この大会の開催運営は、日本の地図学を担う研究機関、行政機関、民間会社等から有志で構成された実行委員会が担った。国際地図学会議は、日本では1980年以来2度目、39年ぶりの開催となった。世代交代がすすみ、前回の実施記録は事実上印刷物のみしか残されていないという条件のなかで、本学会会員を中心とする産・官・学のメンバーからなる実行委員会は、国際会議運営の方法・手順をネットワーク・デジタル環境のもとに新たに組み上げ遺漏無く実行し、日本の地図学の実力を世界に示した。その功績は高く評価される。
ICC2019 実行委員会構成員森田喬(委員長)、若林芳樹(事務局長)、有川正俊、伊藤香織、上田秀敏、宇根寛、ト部勝彦、江藤洋一、太田弘、落合康浩、河合豊明、熊木洋太、小荒井衛、小林岳人、齋藤忠光、佐藤潤、鈴木厚志、瀬戸寿一、塚田野野子、西村雄一郎、野尻琢也、久井情在、藤田秀之、古橋大地

第13回(平成31年度)

受賞者谷 謙二 氏(埼玉大学)
受賞理由谷 謙二教授は、人文地理学の研究を行うとともに、容易に使用できる地理情報システム(GIS)である「MANDARA」、明治時代以降の多時期の地形図を閲覧できるソフトである「今昔マップ」を開発し、無償で公開してきた。また、これらの改良にも取り組み、バージョンアップを継続的に行っている。1993年にVer.1が公開された「MANDARA」は、地図情報取得から地図作製や属性情報収集、空間分析などを行える汎用GISソフトである。中学校から大学までの地理教育でも多く使用されており、2018年にはVer.10が公開された。時系列地形図閲覧ソフト「今昔マップ」は、2006年に首都圏版から公開が始まり、現在はVer.3.02、対象地域は9地域となっている。2013年には、Web上で動く「今昔マップ on the web」の公開を開始し、地理院地図を効果的に活用して、現在までに32地域の閲覧を可能にした。これらは、地理学・地図学の研究、地理・地図教育、地図の利活用を広く支援するものであり、その取り組みは高く評価できる。
受賞者太田 弘 会員(慶應義塾大学普通部)
受賞理由太田 弘会員は、慶應義塾普通部教諭として日々地理教育の実践にあたるとともに、GISを活用したカリキュラムの開発など、地理教育における地図の重要性を一貫して発信し続けている。幅広い層へ向けた出版物の執筆はもとより、挑戦的なテーマを掲げたイベントを企画・主催するなど、精力的に地図学の普及・啓蒙活動を展開している。その活動範囲は国内のみならず、国外にもおよび、隣接する学術分野、生涯教育そして企業との交流にも積極的である。太田氏は、地図とエンターテイメントとの融合にも果敢に取り組み、日本の地図学界のアウトリーチ活動に大きく貢献している。そうした取り組みは、高く評価できる。

第12回(平成30年度)

受賞者一般社団法人オープンストリートマップ・ファウンデーション・ジャパン(OSMFJ)
受賞理由OpenStreetMap(OSM)は、地理情報データを誰でも自由に利用できるよう、一般市民が地理情報データを自ら作成して公開する世界的プロジェクトであり、日本でも市民の地図づくりイベント「マッピングパーティ」が毎週末のように全国各地で展開されている。特に、最近は地域課題の発見(例:バリアフリーの調査など)等とも連携しており、地図づくりが地域づくりに活用される契機となっている。また、災害時に様々な情報を市民ボランティアが地図化するCrisis Mappersにも同コミュニティは積極的に関与しており、市民参加による地図づくりを通じた地図界への貢献は極めて高い。

第11回(平成29年度)

受賞者小林瑞穂 会員(明治大学講師・非)
受賞理由小林会員は日本海軍水路部創設以来の水路業務に強い関心を持ち、一貫して水路部研究を続け、これまでも多数の研究論文を公表してきたが、2015年12月に研究成果を集大成した大著『戦間期における日本海軍水路部の研究』(校倉書房、470頁)を上梓した。本書は、他に類する学術研究書は極めて乏しく、今後、海図を主とする水路図誌、航空図に関する従来の地図史、技術史研究をさらに深め、発展させる貴重な基礎文献として大きく貢献するものであり、高く評価できる。

第10回(平成28年度)

受賞者東京カートグラフィック株式会社(特別会員)
受賞理由同社は、地図を素材としたさまざまな地図商品を作成・販売している。そのラインナップは、ハンカチや手ぬぐい、文房具、ペーパークラフト地球儀などバラエティに富み、従来の地図ユーザーのみならず多くの人々に地図の楽しさを周知・普及することに貢献してきた点で評価される。とりわけ「Geological Textile」シリーズは、専門性の高さゆえ一般の人の目に触れる機会が少なかった地質図を、その配色の美しさと自然が生み出す複雑な模様を活かしてテキスタイルデザインのモチーフとする画期的なアイディアであり、デザイン素材としての地図の可能性を示した点でも高く評価できる。

第9回(平成27年度)

受賞者国土地理院
受賞理由同院は、本格的なデジタル地図情報提供サイト「電子国土Web」をGoogle Mapsに先駆けて2003年に公開、以後改良を重ね、ネットワークによる情報提供時代にふさわしく、各種の地図・空中写真情報を公開してきた。2013年10月からは「地理院地図」という名称で、国土地理院の各種の情報がより幅広く利用できるようになった。2014年3月には地理院地図3Dを公開し、政府の災害対応でも活用が開始された。2014年8月にはベクトルタイル提供実験を開始し、2014年12月にはベクトルタイルデータを活用した触地図試作ページを公開した。さらに2015年1月にはモバイル端末でも快適に利用できるようリニューアルされるなど、進化を続けている。「地理院地図」は技術的に優れたものであるだけでなく、積極的な情報公開の理念や防災分野への応用等から、社会的にも注目すべき存在となっている。このような「地理院地図」を開発・運営している国土地理院は、地図の普及・発展への貢献の点で特別賞にふさわしいと認められる。

第8回(平成26年度)

該当者なし

第7回(平成25年度)

該当者なし

第6回(平成24年度)

受賞者(株)ゼンリン
受賞理由ゼンリンは、東日本大震災に際して、社員が避難所等に出向いて拡大した住宅地図を無償で掲示するなどして、安否確認や避難所生活の改善に大きく役立つ行動を積極的に行った。被災地における地図の重要性をよく認識した行動として賞賛に値する。

第5回(平成23年度)

該当者なし

第4回(平成22年度)

論文
受賞者外邦図研究グループ(代表 小林 茂会員(大阪大学))
受賞理由外邦図研究グループは、貴重な学術資料である外邦図について、地図学的・地理学的な研究を行うだけでなく、それを集成し、デジタルアーカイブ化を進めてその公開を図ってきた。2008年には日本国際地図学会定期大会でシンポジウム「外邦図の集成と多面的活用-アジア太平洋地域の地理情報の応用をめざして-」を開催するとともに、機関誌「地図」に宮澤 仁・照内弘通・山本健太・関根良平・小林 茂・村山良之を著者とする「外邦図デジタルアーカイブの構築と公開・運用上の諸問題」を著し、活動の意義や成果を明らかにしている。さらに2009年には、小林茂会員を編者とする『近代日本の地図作製とアジア太平洋地域』(大阪大学出版会)を刊行し、アジア太平洋地域の国際的な視点も含めた研究成果を明らかにした。この一連の活動は、日本の地図史料の保存と活用、地図文化の継承を図り、地図学の発展に大きく貢献するものであると認められる。

第3回(平成21年度)

該当者なし

第2回(平成20年度)

該当者なし

第1回(平成19年度)

該当者なし

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