受賞者の所属は受賞当時のものです。
目次
第19回(令和7年度)
| 論文 | 黒木貴一(2023)「地形変化を判読するための剰余地図とその特性」地図,61巻1号,30-38.通巻241号に掲載【論説】 |
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| 受賞者 | 黒木貴一 会員(関西大学) |
| 受賞理由 | 黒木貴一会員の「地形変化を判読するための剰余地図とその特性」(地図,61巻1号,30-38)は、高精度の数値標高モデルからその取得に用いたLiDARなどの計測技術の精度限界に近い地形変動を効果的に判読するため剰余地図を試作し、現地観察や写真判読あるいは干渉SAR等では判読が困難な微少な地形変化を、剰余地図に表現し掌握する方法とその有効性について検討した論説である。剰余地図とは、標高変化量をある整数で除算した剰余を階級区分で表示した断裁地図である。黒木会員は、2016年熊本地震はじめ近年顕著な自然災害において、日本地図学会だけでなく関連する地球科学系学会における発災直後の現地調査に派遣され、災害の原因となった地形変化等について詳細な報告を公表してきた。これらの地形調査の現場からの課題に応える地図表現とその活用を提示したことは、高く評価される。 |
第18回(令和6年度)
| 論文 | 鳴海邦匡・渡辺理絵・小林茂(2022)「台湾遠征~日清戦争期までに台湾の主要港湾について作成された英国製海図の翻訳(覆版)にみえる地名表記」地図,60巻1号,17-35.通巻237号に掲載【論説】 |
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| 受賞者 | 鳴海邦匡 会員(甲南大学)・渡辺理絵 会員(山形大学)・小林 茂 会員(大阪大学名誉教授) |
| 受賞理由 | 本論文は,明治前期の地図上の地名の形成過程について著者らが丹念に追跡を行った大作である。現在とは異なり非常に情報を得ることが困難な中で,台湾遠征に際して短期間で地図を作製しなければならなかったことを踏まえ,当時日本がどのように地名情報を収集し,修正を通じて適正化を行っていったかについて,著者らの豊富な研究実績も踏まえながら解明することが極めて難しいその実像に迫っている。港湾の名称表記の変化を追跡したのは主に4つであったが,その中に多様性を見いだしつつその変遷について筆者らが実施した分析は,当時の日本が地名表記を決定した過程について読者に対して大きな示唆を与えた。手がかりの少ない中で適切に史料を選択し,明治前期の地名表記の決定過程を明らかにするという極めて困難なテーマに対し,成果を遺したことが極めて高く評価された。 |
第17回(令和5年度)
| 論文 | 鳴川 肇(2022)「オーサグラフ図法の数式化と歪み評価」地図,60巻1号,1-16.通巻237号に掲載【論説】 |
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| 受賞者 | 鳴川 肇(慶應義塾大学 環境情報学部) |
| 受賞理由 | 1999年に鳴川会員などによって考案されたオーサグラフ図法は,地球上の陸地の面積をほぼ正確に四角形の平面に描き,同時に,メルカトル図法と同じように海などに断裂がなく,一覧性が高い。また,メルカトル図法が持つ「高緯度地方の面積の表現」の欠陥が解消されている。2016年にはグッドデザイン賞を受賞するなど,高いデザイン性を有した世界地図である。しかし,デザインからスタートした世界地図であるため,地図投影法などの数学的な理解と投影法としての課題や限界が明確ではなかった。本論文は,鳴川会員自らが,オーサグラフ図法の数式化に取り組んだ論考であり,数学的な考察から地図投影法としての成果と課題を明らかにした論文である。角度,距離,面積の3要素を正距円筒図法,メルカトル図法,ランベルト正積円筒図法と評価式を用いて比較検証することで,投影法としての成果と限界を明らかにした労作である。デザインと論理性の融合を地図が指向するなかで,本論文は,デザインを契機に発展してきた地図投影図法を数量的に評価する考察方法について,大きな示唆を与えるものであり,その内容は高く評価される。2022年日本地図学会定期大会「特別セッション:オーサグラフの式とかたち」での討議などを踏まえ,デザインと地図投影法の関係性に関する研究が深化する期待も高く,日本地図学会論文賞として表彰するものである。 |
第16回(令和4年度)
| 論文 | 村越 真 ・ 満下健太 ・ 小山真人(2020) 自然災害リスクはハザードマップから適切に読み取れているか? 地図リテラシーの視点からの検討(地図,58巻4号,1-16.通巻232号に掲載)【論説】 |
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| 受賞者 | 村越 真 会員(静岡大学)、満下健太 会員(早稲田大学) |
| 受賞理由 | 村越真会員ほかが著者となっている論文「自然災害リスクはハザードマップから適切に読み取れているか?地図リテラシーの視点からの検討(「地図」58巻4号掲載)は、教員養成系大学生に対する調査を通じて地図から災害リスクを読み取る際の傾向を分析することにより、現状のハザードマップが災害リスク把握に必要な地図リテラシーを確保する観点からどのような課題があるかを明らかにしたものである。本研究はハザードマップについてどのようにすればその効用を高めることができるかについて大きな示唆を与えるものであり、その内容は高く評価される。 |
第15回(令和3年度)
| 論文 | 野上道男(2019):伊能大図における星測と横切測量・方位測量による導線位置の補正-第4次測量までの例-(地図,57 巻 3 号,1-13.通巻 227 号に掲載)【論説】 |
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| 受賞者 | 野上道男 会員 |
| 受賞理由 | 野上道男会員が著者となっている論文「伊能大図における星測と横切測量・方位測量による導線位置の補正-第4次測量までの例-」(「地図」57 巻 3 号掲載)は、我が国の地図史上良く知られる伊能大図について、星測・横切測量・方正測量が導線位置の補正を通じて精度向上にどう寄与したかについて論じたものである。著者は大図における導線計測の実例を多数検証することにより、方位測量の役割や星測の精度向上の役割などを明快に示した。本研究は、測量成果としての伊能大図における精度の本質について大きな示唆を与えるものであり、その内容は高く評価される。 |
第14回(令和2年度)
| 論文 | 小林茂・鳴海邦匡(2018):ヨーロッパにおける長久保赤水の日本図の受容過程(地図,56巻4号,1-17.通巻224号に掲載)【論説】 |
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| 受賞者 | 小林 茂 会員 |
| 受賞理由 | 小林茂会員が筆頭著者となっている論文「ヨーロッパにおける長久保赤水の日本図の受容過程」(地図56巻4号掲載)は、我が国でも地図を大きく変えた長久保赤水の「改正日本輿地路程全圖」について、ヨーロッパにおける日本図の刊行に与えた影響について論じたものである。著者はティツィングによる研究やこれに依拠したクルーゼンシュテルンの取組に対し綿密な調査や緻密な分析を行い、クルーゼンシュテルンの「日本帝国図」がヨーロッパにおける日本図を近世的なものから近代的なものに転換させたものを明快に示した。本研究は、ヨーロッパにおいて日本図がどう扱われたかについて大きな示唆を与えるものであり、その内容は高く評価される。 |
第13回(平成31年度)
| 論文 | 長岡大輔・古沢仁・重野聖之・丸谷薫・池田隆司(2017):札幌市の市制開始期における詳細地形と水文環境(地図,55巻3号,1-9.通巻219号に掲載)【論説・添付地図解説】 |
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| 受賞者 | 長岡大輔 会員(琥珀舎・(株)福田水文センター)他 |
| 受賞理由 | 札幌市公文書館で保管されていた「札幌市街之圖(視形線圖)」(1924)をデジタル化し、市制開始期の札幌市の地形を再現するとともに、札幌の開拓当初から人々に親しまれていた湧泉と人々を脅かしていた洪水について、復元した地形を基に評価・検証を行っている。大正時代に作成された、現在とは仕様の異なる、しかし十分に詳細な地形を表した地図を、地形環境変遷の考察に活かす研究であり、高く評価できる。 |
第12回(平成30年度)
| 論文 | 栗栖晋二(2016):東大伊能図の来歴に関する考察(地図,54巻4号,1-16.通巻216号に掲載)【論説】 |
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| 受賞者 | 栗栖晋二 会員(東京大学技術専門員) |
| 受賞理由 | 東京大学が所蔵している通称「東大伊能図」について、現存する他の文政4年版中図との記載事項についての比較検討、各機関が所蔵している中図との相互比較、関係者への聴き取り、保存されている帳簿等の読み込みから、戦後から現在に至るまでの東大伊能図に関する経緯を探り、図の来歴にについて考察し、従来の説に対し否定的な結果を得ている。著者は既存地図のデジタルアーカイブ化を行うなかで、そこから引き出せる情報を利用した研究成果を発表してきた。本論文は、日本地図学会において歴代の会員が取り組んできた研究テーマについて、最新の手法や情報を活用して取り組んだ意欲的な成果である。 |
第11回(平成29年度)
| 論文 | 太田守重(2016):拡張型の一般描画モデルを適用した地理情報表現(地図,54巻2号,1-16.通巻214号に掲載)【論説】 |
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| 受賞者 | 太田守重 会員(国際航業(株)フェロー) |
| 受賞理由 | 同会員による「拡張型の一般描画モデルを適用した地理情報表現」(地図.54巻2号,1-16)は、著者が長年携わってきた地理空間情報のモデル化の考え方を発展させた一般描画モデルを提案し、著者らが開発したGISの一種である支援ツールに実装することで、地理情報標準に準拠した多様な表現が有効に行えることなどを示したものである。抽象的な概念を具体的に視覚化する試みが丁寧に記述され、地理情報表現のモデル化の分野での読者の理解を促す論説として、高く評価できる。 |
第10回(平成28年度)
| 論文 | 西尾良司(2015):地下上申宇佐村絵図の作図技術の分析(地図,53巻1号,1-16.通巻208号に掲載)【論説】 |
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| 受賞者 | 西尾良司 会員 |
| 受賞理由 | 同会員による「地下上申宇佐村絵図の作図技術の分析」(地図.53巻1号,1-16)は、著者が独自に考案した手法を用いて、現地調査の成果をもとに江戸時代の絵図と国土地理院の数値地図との標定を実施し、絵図の精度と作成手法を推定した労作であり、高く評価できる。 |
第9回(平成27年度)
| 論文 | 神谷泉(2014):面積と角のバランスを考慮した「最適全球図法」の開発(地図,52巻2号,35-46.通巻205号に掲載)【論説】 |
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| 受賞者 | 神谷泉 会員 |
| 受賞理由 | 同会員による『面積と角のバランスを考慮した「最適全球図法」の開発』(地図.52(2):35-46)は、既存の投影法の発想にこだわらずに、全球地図の投影に関する多くのパラメーターの組み合わせと歪みとの関係を考察したもので、投影法の研究・開発に新しい視点を提起した点で高く評価できる。 |
第8回(平成26年度)
| 論文 | 井田浩三(2013):鷹見泉石「新訳和蘭国全図」原図の考察(地図,51巻1号,2-15.通巻200号に掲載)【論説】 |
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| 受賞者 | 井田浩三 会員 |
| 受賞理由 | 同会員による『鷹見泉石「新訳和蘭国全図」原図の考察』(地図51(1):2-15)は、ヨーロッパ諸国の図書館や古書店を探索のうえ入手した複数の古地図をデジタル化し、GIS技術等を活用してその記載内容を比較分析することで、江戸時代末期に日本で作成されたオランダの地図のルーツを解明したものである。緻密な比較分析は古地図研究の模範となるものであり、かつ現代の技術を活用することにより新たな可能性を示したものとして、高く評価される。 |
第7回(平成25年度)
| 論文 | 政春尋志(2011):日本の地形図等に用いられた多面体図法の投影原理(地図,49巻2号,1-7.通巻193号に掲載)【論説】 |
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| 受賞者 | 政春尋志 会員(国土地理院) |
| 受賞理由 | 同会員による「日本の地形図等に用いられた多面体図法の投影原理」(地図49(2):1-7)は、陸地測量部の原典にあたり、これまで説明が混乱していた多面体図法の実態を解明したものである。UTM図法導入以前に地形図に用いられていた多面体図法の記録という点において、また地形図の歴史の解明という点において、重要な貢献をなす文献であり、高く評価される。 |
第6回(平成24年度)
| 論文 | 目代邦康・小荒井衛(2011):日本におけるジオパーク活動の展開と地図の活用(地図,49巻3号,3-16.通巻194号に掲載)【総説】 |
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| 受賞者 | 目代邦康 会員(自然保護助成基金)・小荒井衛 会員(国土地理院) |
| 受賞理由 | 両会員共著の「日本におけるジオパーク活動の展開と地図の活用」(地図49巻3号掲載)は、日本のジオパークにおける地図利用の実態に基づき、ジオツーリズムにおける地図の役割と問題点を総括したものである。近年高い関心を呼んでいるジオツーリズムを、その重要な要素である地図の視点から論じており、高く評価される。 |
第5回(平成23年度)
| 論文 | 小荒井衛・佐藤 浩・中埜貴元(2010):航空レーザ測量による植生三次元構造を反映した植生図の作成(地図,48巻3号,34-46.通巻190号に掲載)【論説】 |
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| 受賞者 | 小荒井衛 会員(国土地理院)・佐藤 浩 会員(国土地理院)・中埜貴元 会員(国土地理院) |
| 受賞理由 | 上記三会員共著の論説「航空レーザ測量による植生三次元構造を反映した植生図の作成」(「地図」48巻3号掲載)は、航空レーザ測量データにより、植生の三次元構造を捉えて植生図として表現する手法を開発しようとしたものである。詳細な地形データだけではなく、植生をはじめとするさまざまな環境指標の図化に応用することが期待されている航空レーザ測量の可能性を具体的に示したことは、高く評価される。 |
第4回(平成22年度)
| 論文 | 石田恵一・森田喬(2009):イメージマップおよび視覚的データ分析による街路イメージの日仏比較(地図,47巻1号,12-26.通巻184号に掲載)【原著論文】 |
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| 受賞者 | 石田恵一 会員(AIGコーポレート・ソリューションズ(株)・森田喬 会員(法政大学) |
| 受賞理由 | 両会員共著の原著論文「イメージマップおよび視覚的データ分析による街路イメージの日仏比較」(「地図」47巻1号掲載)は、街路を事例として、建築・都市計画学の手法を取り入れ、日仏で調査を行った研究論文である。空間イメージに関するデータを分析し、日仏で空間がそれぞれどのように認知されているかを明らかにしたものであり、地図表現の研究に新しい視点を提示した論文として高く評価される。 |
第3回(平成21年度)
| 論文 | 川村博忠(2008):正保日本図と北条氏長の作図技術に関する若干の考察」(地図,46巻4号,11-26.通巻183号に掲載)【原著論文】 |
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| 受賞者 | 川村博忠 会員(元山口大学) |
| 受賞理由 | 同会員共著の原著論文「正保日本図と北条氏長の作図技術に関する若干の考察」(「地図」46巻4号掲載)は、これまで多くの研究課題が残されていた正保日本図に関し、現存する図の作製時期、再製図の作図技術などについて著者なりの結論を呈示しているもので、今後の正保日本図研究の足がかりとなる論文として高く評価される。 |
第2回(平成20年度)
| 論文 | 村越 真・小山真人(2007):火山ハザードマップの読み取りに対するドリルマップ提示の効果(地図,45巻4号,1-11.通巻179号に掲載)【原著論文】 |
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| 受賞者 | 村越 真 会員(静岡大学)・小山真人 会員(静岡大学) |
| 受賞理由 | 両会員の共著論文「火山ハザードマップの読み取りに対するドリルマップ提示の効果」(「地図」45巻4号掲載)は、専門家意外にはわかりにくいとされる主題図の普及策という、これまで問題視されながらも研究が立ち後れていた課題に取り組み、新しい研究分野を拓いた論文として高く評価される。 |
第1回(平成19年度)
| 論文 | 川名 禎(2006):二王座村絵図にみる臼杵城下の景観と地域構成(地図,44巻3号,1-18.通巻174号に掲載)【原著論文】 |
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| 受賞者 | 川名 禎 会員 (國學院大学(非)) |
| 受賞理由 | 同会員の単著論文「二王座村絵図にみる臼杵城下の景観と地域構成」(「地図」44巻3号掲載)は、近世の村絵図を詳細に分析し、当時の地域構成や景観について歴史地理学的に論じた優れた論文である。 |
